1.はじめに:小さな商売ほど「お金と時間の使い方」が大切
一生懸命働いているのに、なぜか手元にお金が残らない。
SNSもやっている。ホームページも作った。広告も少し試した。それでも、思ったほど売上につながらない。
個人事業主や小さな会社を経営していると、こんな悩みを感じることがあります。
そこで大切になるのが、「限られたお金と時間を、どこに使うか」という考え方です。
京都には「始末する」という言葉があります。これは単純に「ケチになる」という意味ではありません。
無駄なものにはお金を使わず、本当に必要なところには、きちんとお金を使う。そんな考え方です。
商売でも同じです。人も、お金も、時間も限られている小さな会社ほど、「何をやるか」だけでなく「何をやらないか」を決めることが大切です。
例えば、大企業なら広告に何百万円も使えます。しかし、小さなお店が同じ勝負をしようとすると、すぐに資金が尽きてしまいます。
だからこそ、小さな会社には小さな会社なりの勝ち方が必要です。
今回取り上げるのは、イギリスの実業家マーク・ティルベリーが紹介しているビジネスの考え方です。
彼の戦略には、大企業と真正面から競争せず、限られた資金や時間を上手に使うヒントがあります。
難しい経営理論として考える必要はありません。京都の大通りに大型店を出せなくても、路地裏で「ここにしかない商品」を扱えば、わざわざ探して来てくれるお客様はいます。
今回はそんな視点から、個人事業主や中小企業でも取り入れやすい5つの考え方を見ていきます。
2.戦略1:大手と同じ場所で戦わず「独自の切り口」を見つける

最初のポイントは、大手と同じ商品を、同じ売り方で販売しないことです。
マーク・ティルベリーの考え方の一つに、「市場そのものを支配できないなら、切り口を支配する」というものがあります。
少し難しく聞こえるかもしれませんが、意味はシンプルです。
「みんなに売る」のではなく、「特定の人に強く選ばれる商品」にするということです。
例えば、京都駅前にある大型のお土産店と、個人経営のお店が「普通の京都土産」の品揃えで競争しても、なかなか勝てません。商品数も広告費も、人員も大手の方が多いからです。
そこで、商品そのものではなく「誰向けの商品なのか」を変えてみます。
- 猫好きの人だけを対象にした京都雑貨
- 特定のアニメが好きな海外旅行者向けの和風小物
- 御朱印巡りをする人向けの専用ケース
- 40代以上の女性向けの落ち着いた京都体験
同じ「京都の商品」でも、「誰のための商品か」が変わるだけで、競争相手も変わります。
大手と正面から価格勝負をする必要がなくなるわけです。
「誰でも歓迎」より「あなたのための商品」の方が伝わりやすい
飲食店でも同じです。「誰でも楽しめるランチのお店」では、特徴がなかなか伝わりません。
一方で、「京都観光で歩き疲れた40代以上の女性が、静かに休めるランチのお店」と言われると、対象となる人は「自分に合いそう」と感じます。
これは、町の商店街でも昔から行われてきた考え方です。魚なら魚屋、お茶ならお茶屋というように、それぞれが得意な商品を持っていたからこそ、「これならあの店」と選ばれていました。
インターネットでも基本は同じです。何でも扱うよりも、「この悩みなら、この店」と思ってもらえる方が、小さな会社には向いています。
他の人が見落としているところに商売の種がある
マークの事例では、eBayに出品されている商品の中から、商品名のスペルを間違えているため検索で見つかりにくくなっている商品を探し、安く仕入れて販売する方法が紹介されています。
Typehoundのようなサービスを使い、他の人が見つけにくい商品を探すという考え方です。
重要なのは、この方法そのものではなく、「他の人が見落としている不便や悩みの中に、商売のチャンスがある」という点です。
例えば地域のビジネスなら、次のようなところにヒントがあります。
- 大手では対応してくれない細かな相談
- 特定の年代だけが抱えている悩み
- 特定の趣味を持つ人向けの商品
- 営業時間や予約方法への不満
- 既存サービスでは面倒だと感じられている作業
大きな市場を取りに行く必要はありません。
まずは「この悩みなら、この店」と思ってもらえる場所を一つ作る。それだけでも、価格だけで比較される状態から抜け出しやすくなります。
3.戦略2:商品そのものではなく「買った後の気持ち」を売る

商品を売ろうとすると、多くの人は商品の特徴を一生懸命説明します。例えば宇治茶なら、産地、茶葉の種類、香り、製法、成分などです。
もちろん、こうした情報も必要です。
ただ、お客様が買っているものは商品そのものだけではなく、その商品を使った後に得られる気持ちや体験も含まれています。
高級時計を買う人も、単に時間を確認するためだけに高額な時計を購入しているわけではありません。「良いものを身につけている」という満足感や、自信、特別感も一緒に買っています。
ロールスロイスの有名な広告には、「時速96キロで走る車内で、最も大きな音を立てるのは電気時計である」という表現があります。
伝えているのは単なる「静かな車」という機能ではなく、その車に乗ったときに感じられる「静かで贅沢な時間」です。
宇治茶なら「茶葉」ではなく「ほっとできる時間」を売る
例えば宇治茶を販売するとします。「高品質な茶葉です」だけでは、商品の説明で終わってしまいます。
しかし、「仕事が終わった夜に、10分だけスマートフォンを置いて、自分のためにお茶を淹れる時間」と伝えると、見え方が変わります。
お客様が買っているのは、茶葉だけではありません。
- 忙しい毎日から少し離れる時間
- 自分を丁寧に扱っているという満足感
- 良いものを知っているという喜び
- 家族や友人とゆっくり過ごす時間
こうした「買った後の気持ち」まで想像してもらえると、価格だけでは伝わらない商品の価値が見えてきます。
自分の商品を「買った後」で考えてみる
この考え方は、どんな業種でも使えます。
美容室なら「髪を切る」だけではなく、鏡を見たときに「少し若く見える」「人に会いたくなる」と感じるところまでが価値です。
工務店なら「家を建てる」だけではありません。家族が安心して暮らせる場所を作ることです。
動画制作なら「動画を納品する」ことだけが価値ではありません。動画を見た人がサービスを理解し、「一度相談してみよう」と思える状態を作ることが価値です。
商品を説明するときは、一度こう考えてみてください。
「これを買ったお客様は、その後どうなれるのだろう?」
この質問をするだけでも、ホームページやSNSで伝える内容は大きく変わります。
4.戦略3:有名人よりも「地域で信頼されている人」と組む
SNSで商品を広めようとすると、「できるだけフォロワーが多い人に紹介してもらおう」と考えがちです。
しかし、スモールビジネスでは、必ずしも有名人が正解とは限りません。
例えば京都のお店なら、全国的に有名な芸能人よりも、「京都の路地裏グルメを何年も紹介している人」の方がお客様を連れてきてくれることがあります。
フォロワーが100万人いても、その中に京都へ来る人がほとんどいなければ、お店の予約にはなかなかつながりません。
一方で、フォロワーが1万人でも、その多くが「京都のお店を探している人」なら価値があります。
つまり、大切なのは人数ではありません。
自分のお客様になりそうな人から、どれくらい信頼されているかを見ることが重要です。
地域のキーマンと組む3つのステップ
- 自分のお客様と相性の良い人を探す
フォロワー数だけで判断せず、どんな人が投稿を見ているのかを確認します。 - まず商品やサービスを体験してもらう
いきなり「宣伝してください」と頼むのではなく、本当に良いと思ってもらえる体験を提供します。 - 紹介から売上につながる仕組みを作る
紹介経由で予約や購入が発生した場合に、紹介料を支払う方法もあります。
紹介によって実際に売上が発生した場合だけ報酬を支払う方法は、「成果報酬」や「アフィリエイト」と呼ばれることがあります。
難しく考える必要はなく、昔からある「紹介のお礼」を仕組みにしたようなものです。
例えば、「この人の紹介から予約が入ったら、その売上の一部を紹介料として支払う」という形です。
広告費を先に大きく支払う必要がないため、小さな会社でも試しやすくなります。
有名人を探す必要はありません。
地域で「この人のおすすめなら行ってみたい」と思われている人を探す方が、実際の予約や来店につながる可能性があります。
5.戦略4:いきなり高額商品を売らず「買いやすい階段」を作る

初めて会った人から、いきなり「30万円の商品を買ってください」と言われたら、多くの人は警戒します。
これは、初対面の人にいきなり結婚を申し込むようなものです。
商売でも同じです。最初は、お客様が試しやすい商品やサービスを用意し、そこで満足してもらってから次の商品を案内します。
マーケティングでは、こうした商品の段階を「バリューラダー」と呼ぶことがあります。
日本語で考えるなら、「お客様が安心しながら上がっていく商品階段」です。
例えば京都の体験サービスなら3段階にする
例えば京都の体験サービスなら、次のように考えられます。
- 一段目:500円のお試し体験
まずは気軽にサービスを知ってもらいます。 - 二段目:3,000円の本格体験
実際にサービスの良さを感じてもらいます。 - 三段目:3万円以上の商品や継続サービス
もっと深く楽しみたい人に案内します。
最初から3万円の商品だけを見せるより、500円の商品を体験してもらった後の方が、次の商品を検討してもらいやすくなります。
なぜなら、お客様の中に「このお店なら大丈夫そう」という安心感が生まれているからです。
美容室や整体院でも同じ考え方が使える
例えば整体院なら、「初回相談やお試し施術 → 通常の施術 → 継続的なケアプラン」という流れを作れます。
オンライン講座なら、無料の情報発信から始めて、低価格の商品、本格的な講座へ進んでもらう方法もあります。
重要なのは、無理に高額商品へ誘導することではありません。
お客様が「もう少しお願いしたい」と思ったときに、次の商品を用意しておくことです。
「売るための階段」というより、「安心して付き合いを深めてもらう階段」と考えると分かりやすいでしょう。
6.戦略5:身内の「いいね」より、小さく売って確かめる

新しい商品を思いついたとき、家族や友人に「これ、売れると思う?」と相談することがあります。
すると、「いいと思う」「面白そう」「絶対売れるよ」と応援してくれることも多いでしょう。
もちろん、その言葉はありがたいものです。
ただし、その言葉だけを信じて大きなお金を投資するのは危険です。
家族や友人は、あなたを応援したいから褒めてくれます。しかし、実際のお客様は、本当に必要だと思わなければお金を払いません。
商売で一番分かりやすい反応は、「いいですね」という言葉ではありません。
実際に予約するか。実際に買うか。実際にお金を払うか。ここを見る必要があります。
いきなり大勝負せず、小さく試してみる
新しい商品を始めるとき、最初から店舗を借りたり、大量の在庫を仕入れたりする必要はありません。
まずは小さく試して、お客様の反応を見る方法があります。
- 商品を大量に作る前に、SNSで先行予約を募集する
- 店を借りる前に、レンタルスペースで1日だけ販売してみる
- 飲食店を始める前に、イベントやキッチンカーで商品を試してみる
- 新しいサービスを本格販売する前に、少人数だけ募集する
これは、新しい料理をメニューに加える前に「試食会」をするようなものです。
反応が悪ければ直せますし、反応が良ければ少しずつ販売を広げられます。
失敗しないことより「小さく失敗すること」が大切
商売では、すべてのアイデアが成功するわけではありません。
だからこそ、最初から大きなお金をかけないことが重要です。
例えば100万円を使ってから「売れなかった」と気づくより、1万円で試して「この商品は反応が悪い」と分かった方が安全です。
失敗そのものをゼロにすることは難しいでしょう。
しかし、失敗したときの損失を小さくすることはできます。
何カ月も考え続けるより、まず少人数に販売してみる。売れなければ修正し、売れれば少し広げる。
この繰り返しは、資金に限りがある個人事業主や小さな会社ほど重要です。
7.まとめ:小さな商売ほど「全部やらないこと」が大切
今回紹介した5つの考え方を、もう一度整理します。
- 大手と同じ場所で戦わず、独自の切り口を見つける
- 商品の特徴だけではなく、買った後の気持ちを伝える
- 有名人ではなく、自分のお客様から信頼されている人と組む
- いきなり高額商品を売らず、買いやすい商品から関係を作る
- 身内の評価ではなく、小さく販売して実際のお客様の反応を見る
どれも、特別な技術や莫大な資金が必要な方法ではありません。
むしろ大切なのは、限られた時間とお金をどこに使うかです。
これは、京都でいう「始末」の考え方にも近いと思います。何でも節約するのではなく、必要のないところには使わない。
その代わり、本当に必要なところにはきちんと投資するという考え方です。
例えば、SNSのフォロワーを1万人増やすことより、毎月5件の問い合わせが増える方が商売には意味があります。
立派なホームページを作ることより、初めて訪れた人が「ここなら相談できそう」と感じるホームページを作る方が大切です。
商品を100種類用意することより、「この人にはこれ」と言える商品を3つ作る方が売りやすいこともあります。
大きな会社の真似をする必要はありません。
自分のお客様をよく見て、自分の商売だからできることに集中する。これが小さな会社にとって大切な考え方です。
まずは今回紹介した5つの中から、一つだけ試してみてください。
「うちの商品を買った人は、その後どんな気持ちになっているだろう?」と考えるだけでも構いません。
あるいは、「この商品を、もっと特定の人向けにできないだろうか?」と考えてみてもいいでしょう。
商売は、一度に大きく変える必要はありません。
小さく試す。お客様の反応を見る。少し直す。そして、うまくいったものを少しずつ広げる。
その積み重ねが、長く続く「お商売」につながっていくのだと思います。
